間質性肺炎の原因は様々であり、膠原病や吸入抗原への曝露、薬剤などが原因となりえます。
その原因を検索するため、多くの時間をかけて問診や身体診察、検査などを行いますが、中には原因が不明なものも多く存在し、これらを特発性間質性肺炎と呼んでいます。
特発性間質性肺炎の中でも最も高頻度で代表的な疾患が特発性肺線維症(IPF; idiopathic pulmonary fibrosis)です。特発性肺線維症、もしくはアイピーエフ(IPF)と呼んでいます。ここではIPFについて詳しくまとめます。
特発性肺線維症(IPF)
IPFの概論
特発性肺線維症(IPF)は、成人で発症する原因不明の間質性肺炎であり、肺のみに限局した疾患(肺以外の臓器には基本的には病変はなし)です。
- 慢性かつ進行性に悪化する
- 原因は不明
- 予後不良だが経過は様々で予測が難しい
ことが特徴といわれています。
2014年にはIPFの日本人における臨床的特徴が調査され、
- 有病率は10万人あたり10人
- 発症率は10万人あたり2.2人
- 平均発症年齢は70歳、約70%が男性
- 診断後の平均生存期間は約3年
と報告されました。
Natsuizaka M, et al. Epidemiologic survey of Japanese patients with idiopathic pulmonary fibrosis and investigation of ethnic differences. Am J Respir Crit Care Med 2014;190:773–9. (本研究は非常に重要な報告ですが、2003年から2007年までの患者を対象としており、治療薬である抗線維化薬が保険適応となる前のデータですので、その解釈には注意が必要です。)
IPFの典型的な症状
初期には無症状ですが、次第に乾いた咳や息切れを認めるようになります。特に息切れは労作時に認めることが特徴です。
咳
IPFの咳は、難治性で長く続く(遷延する)ことが多く、深呼吸や体を動かすことなどで誘発されやすいことが知られています。しつこく悩ましい咳で、咳が強い場合には咳止めの薬(鎮咳薬)を使用します。
鎮咳薬ではなかなか咳をとめることが難しい場合も多く、長くつきあっていく必要があります。
動いた時の息切れ
IPFでは特に、動いた時の息切れが特徴です。IPFの初期では、安静にしていても息切れはでないことが多いので注意が必要です。次第にIPFが進行すると、労作時の息切れが出現します。息切れは進行性で、重症になると息切れのために外出が日常生活に支障がでる場合もあります。
修正MRC息切れスケール質問票
息切れの把握には、様々な問診表がありますが、特に修正MRC息切れスケール質問票という質問票を参考にすることは多いです。この質問票はグレード(Gr)0から4の5段階の評価で症状を表しています(以下)。
- Gr0:激しい運動をしたときだけ息切れがある。
- Gr1:平坦な道を早足で歩く、あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある。
- Gr2:息切れがあるので、同年代の人より平坦な道を歩くのが遅い、あるいは平坦な道を自分のペースで歩いているとき、息切れのために立ち止まることがある。
- Gr3:平坦な道を約 100m、あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。
- Gr4:息切れがひどく家から出られない、あるいは衣服の着替えをするときにも息切れがある。
この修正MRC息切れスケール問診表は、特に特発性肺線維症では重要な予後因子として知られています。
IPFの身体所見
聴診
多くのIPFは、一番下の肺の背中側に影が出てきます。聴診では、背中の真ん中ぐらいのところに聴診器をあてると、吸気の最後のほうで「パリッ!!」と音が聞こえます。
捻髪音といいますが、吸気の最後にかけてクレッシェンドに音が強くなるのが特徴です。医学的には「fine crackles」と記載します。
実は、胸から聴診器をあててもあまり音は聞こえません。背中というのが重要です。
レントゲンで影がわかりづらくても、背中の音だけはしっかり聞こえる、ということもありますので、間質性肺炎を疑う場合にはしっかり聴診することが重要です。
特に捻髪音は早期診断に有用であり、IPFを疑う場合には積極的に背中の音を聴診する必要があります。
ばち指
指先が太鼓のばちのように丸く太く変化してくることも間質性肺炎の特徴です。爪の根元が膨らんで、へこみがなくなります。
ばち指に関しては、こちらの記事でまとめていますので、診察方法など詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
IPFの胸部HRCT所見
典型的には、UIP(usual interstitial pneumonia)パターンや蜂巣肺を呈することが特徴です。
Raghu G, et al. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med 2011;183:788–824.
UIPパターンは通常型間質性肺炎パターンのことで、
- 胸膜直下優位な分布(肺の一番外側)
- 網状影(網目状の影)
などを特徴とします。ユーアイピー(UIP)と呼んでいます。
時に肺の一番外側に網目状の影を認め、蜂巣肺という蜂の巣のような所見を認めます。特発性肺線維症(IPF)において、このような肺の線維化を示唆する所見は、広範なほど予後不良であることがわかっています。
IPFの予後と経過
IPFの重症度:GAPモデル
特発性肺線維症(IPF)の重症度を決定するためには、GAPモデルが用いられることがあります。
IPFの経過
特発性肺線維症(IPF)診断後の平均生存期間は約3-5年程度であり、極めて予後不良な疾患です。
ただし、IPFは慢性かつ進行性に悪化することがわかっていますが、その経過は様々であり、進行の予測が難しいことも特徴です。そのため、IPFでは定期的な検査が特に重要です。
Bando M, et al. A prospective survey of idiopathic interstitial pneumonias in a web registry in Japan. Respir Investig 2015;53:51–9. Raghu G, et al. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med 2011;183:788–824.
IPFの急性増悪
特発性肺線維症(IPF)では、経過中に予後不良な急性増悪(きゅうせいぞうあく)を発症することも報告されており、特発性肺線維症の主たる死因の一つとされています。
IPFは指定難病の一つ
特発性肺線維症は指定難病(指定難病85)の一つに登録されています。指定難病では日本独自の重症度分類が定められ、重症度分類はⅠからⅣの4段階で構成されています。
重症度分類の項目には、
- 安静時の動脈血液ガス検査の酸素濃度(安静時動脈血酸素分圧)
- 6分間歩行試験時の酸素濃度(SpO2)
が用いられ、以下のように定められています。
難病医療費助成制度は、重症度Ⅲ以上が対象です。ただし、重症度がⅠやⅡであっても、過去1年間において月の医療費総額が33,330円を超える月が3回以上ある場合には、軽症高額該当が利用できます。
IPFの治療薬
特発性肺線維症(IPF)の治療薬は、現在日本では、
- ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)
- ニンテダニブ(商品名:オフェブ)
の2種類の抗線維化薬が保険収載されています。これら薬剤の効果は、疾患進行を抑制すること、つまり進行を遅らせる効果が期待されています。
■2024年に日本からIPFに関するレビューが報告されました。IPFの経過や診断、治験などの最新情報が日本の状況に合わせてまとめられています。ぜひご参考ください。