急性増悪、間質性肺炎の合併症

間質性肺炎の合併症の中でも特に注意しなければならないのは急性増悪です。1か月以内の経過で急激に息切れや咳が悪化するとても怖い合併症です。以下に急性増悪に関する一般的な知見をまとめています。

目次

急性増悪

序章 急性増悪:間質性肺炎の重要な合併症

間質性肺炎の重要な合併症の一つに急性増悪があります。

急性増悪は、間質性肺炎の経過中に、急激な呼吸状態の悪化を示し、短期間で死亡に至る可能性がある病態です。

昨日までは普段通りに過ごしていたのに、朝起きると咳や階段昇降時に息切れを自覚し、数日から数週間(1か月以内)の経過でその症状が悪化します。

はじめは咳などの風邪のような症状から始まることも多く、気づきにくいですが、徐々に咳や労作時の息切れが悪化します。

急性増悪という合併症を知っていても、なかなかはじめから症状だけで鑑別することは困難です。病院を受診して、胸部レントゲン写真を撮影することが大切です。

最近では原因が不明のものだけではなく、肺炎や気胸など様々なものが誘因となって急性増悪を発症することも明らかとなってきました。

急性増悪の原因

1993年に初めて急性増悪が報告されて以降、これまでは基本的には急性増悪は原因が不明なものと考えられてきました。

しかし、細菌感染を起こした後や新たに薬剤を開始した後などに急性増悪に類似した病態を発症することが少しずつ明らかとなり、ついに2016年に原因の有無で分類する提案がなされています。

この国際ワーキンググループからの報告では、原因が不明なものをidiopathic AE原因があるものをtriggered AEと呼ぶことが提案されました。
(日本語ではidiopathic AEは特発性急性増悪、triggered AEは誘因のある急性増悪と訳すのが良いでしょうか。)

急性増悪の原因となり得るものには以下のようなものが考えられています。

  • 感染(細菌、真菌、ウイルスなど)
  • 薬剤
  • 誤嚥
  • 肺塞栓症、気胸
  • 検査や手術(気管支肺胞洗浄、外科的肺生検など)

間質性肺炎では、様々なものが急性増悪の誘因となりうることに注意し、日々の診療に取り組んでいます。また、間質性肺炎の患者では、特に感染予防には十分注意していただき、急性増悪が疑われる場合にはす早めに医療機関を受診したほうが良いかもしれません。

急性増悪の原因に関する情報はこちらの記事もご覧ください。

急性増悪時の検査

急性増悪の時の血液検査では、CRPやLDHの上昇だけでなく、KL-6、SP-D、SP-Aなどの上昇を認めることが多いとされています。その他には、

  • プロカルシトニン(PCT)
  • β-D-グルカン
  • サイトメガロ抗原血症、サイトメガロウイルス抗体
  • BNPやNT-proBNP
  • D-ダイマー

などの検査を用いて、様々な疾患との鑑別を行っています。また、動脈から血液ガス検査を行い、体の酸素の状態を調べることも重要です。

状態によっては気管支鏡検査を緊急で行うこともあります。気管支肺胞洗浄(BAL)では、好中球、リンパ球、好酸球などの炎症細胞が様々な割合で上昇しますし、感染症との鑑別にも有用とされています。

このように急性増悪を疑った際には、血液検査、動脈血ガス検査、時に気管支鏡検査などを用いて、状態の把握や様々な疾患を鑑別しています。

急性増悪の発症頻度と危険因子、90日死亡率

2020年に約1000例のデータを用いて、特発性肺線維症(IPF)とIPF以外の間質性肺炎での、急性増悪の発症頻度と予後を調べた研究が、日本の単施設から報告されました。この研究では、急性増悪の発症率は、特発性肺線維症:8.38/100人年、その他間質性肺炎:3.21/100人年と報告されています。

急性増悪の発症危険リスク因子に関しては様々な報告があります。

  • 特発性肺線維症(IPF)であること)
  • 努力肺活量(FVC)低値
  • 肺拡散能力(DLCO)低値
  • 動脈血酸素分圧(PaO2)低値
  • 肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の高値
  • 6か月間で肺活量(%VC)が10%以上低下すること

などが急性増悪の発症リスク因子として報告されています。

背景の間質性肺炎の状態だけでなく、肺機能が悪化すること、つまりは疾患進行がある場合には、急性増悪を発症する危険性が高いことが示唆されました。

研究にもよりますが、上記の日本からの研究結果では、急性増悪発症後の90日以内死亡率は、特発性肺線維症(IPF):47%、その他間質性肺炎:38%と報告されています。

急性増悪の治療

急性増悪の治療薬には、経験的に高用量ステロイドや免疫抑制剤を選択している施設は多いかもしれません。日本呼吸器学会監修の特発性肺線維症の治療ガイドライン2017にも、急性増悪に対する治療として、

ステロイドは
パルス療法を含めたステロイド治療を行うことを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)

免疫抑制薬は
投与することを提案するが、少数の患者には合理的な選択肢ではない可能性がある(弱い推奨、非常に低いエビデンス)

のように記載されています。

急性増悪時にステロイドや免疫抑制剤を使用すべきなのか、さらにステロイドパルス療法やその後のステロイドの投与量、どのぐらいの期間をかけてステロイドを減量していくのか、免疫抑制剤は何を選択するのかなど、まだ急性増悪の治療に関しては一定の見解はないのが現状です。

今後、この急性増悪に対する画期的な治療法が定まることを期待しますが、そういった意味でも、急性増悪に対するリコモジュリン®の試験はとても大きな意義があった試験であると思います。

急性増悪の治療に関する報告は以下の記事もご覧ください。

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