【まとめ】抗ARS抗体陽性の間質性肺炎

筋炎関連の間質性肺炎は、その筋炎特異的自己抗体に応じた病態を考えることが重要です。

特に抗ARS抗体は急性、慢性の両方の経過をたどり、初期治療対応や経過中の再燃が問題となる一群です。

目次

抗ARS抗体の種類

8種類の抗ARS抗体

現在、抗ARS抗体には、抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体、抗OJ抗体、抗Ha抗体、抗Zo抗体の8種類が報告されています。

特に、抗ARS抗体としてEIA法で測定できるのは抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体の5種類であり、比較的多い抗OJ抗体が含まれないのは注意が必要です。

抗ARS抗体ごとの初発臓器と最終観察時点の症状発現臓器

抗ARS抗体は現在8種類が発見されていますが、その抗体毎で症状の発現好発部位は異なります。2019年にアメリカとヨーロッパの抗ARS抗体症候群ネットワーク(AENEAS)から、抗ARS抗体の種類によって症状の発現が異なることが報告されました。

引用文献:Cavagna L, Trallero-Araguás E, Meloni F, Cavazzana I, Rojas-Serrano J, Feist E, et al. Influence of Antisynthetase Antibodies Specificities on Antisynthetase Syndrome Clinical Spectrum Time Course. J Clin Med Res 2019;8.

背景
■抗ARS抗体症候群(ASS)は、筋炎、関節炎、間質性肺疾患(ILD)を含む古典的な臨床三徴候と、異なるアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)に対する特異的自己抗体の発現によって特徴づけられる疾患である。
■これまでARSの種類によってASSの臨床症状、経過、転帰に影響を及ぼすかどうかは不明であった。

方法
■対象:AENEAS(American and European NEtwork of Antisynthetase Syndrome)共同研究グループのASS患者828名(抗Jo-1 593名、抗PL-7 95名、抗PL-12 84名、抗EJ 38名、抗OJ 18名)
■発症時期、特徴、三徴候および生存期間をレトロスペクティブに記録した。
■まず全ARS症例間で行い、有意差がある場合は、抗Jo-1陽性を対照群として比較した。

結果
■全症例の有病率に若干の差はあるものの、全症例において筋炎、関節炎、ILDの特徴は類似しており、発症は主に単一の症状から始まった。
■生存期間は抗ARS抗体の種類によって影響はなかった。

肺病理所見

抗ARS抗体は間質性肺炎の原因を検索するうえで非常に重要な自己抗体です。現在8種類の抗ARS抗体が見つかっていますが、その抗体毎の肺病理所見を検討した最新の研究が報告されています。

Flashner BM, et al. Pulmonary histopathology of interstitial lung disease associated with antisynthetase antibodies. Respir Med 2022;191:106697.さらに詳しく解説(専門的な内容です)

背景
■抗ARS抗体陽性間質性肺疾患(ASS-ILD)の肺生検または剖検所見を用いて、抗体の種類が肺の病理組織の指標となるかどうかを明らかにすることを目的とした。

方法
■PubMedの英文文献を網羅的にレビューし、Jo-1、PL-12、PL-7、KS、ES、OJなどの抗ARS抗体を有する症例の肺病理組織学的結果を同定した。
■Beth Israel Deaconess Medical Centerで2015年から2020年の間にILD、抗ARS抗体、肺生検を行った患者を特定し、各症例について特定の抗ARS抗体と通常型間質性肺炎(UIP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、器質化肺炎(OP)、急性肺損傷(ALI)など、生検または剖検で確認した主要病理組織学パターンを調査した。
■病理組織像が抗体の種類によって異なるかどうかを調べるために、FisherのExact検定を用いて、4つの主要パターンのそれぞれの比率を抗体の種類別に比較した。

結果
■病理所見と抗ARS抗体陽性の310例を同定した。
■NSIPの割合は抗体型によって有意に異なり、Jo-1の31%(p<0.01)、EJの67%(p<0.01)、KSの63%(p<0.01)に認めた。
■OPはJo-1では23%(p=0.07)と多かったが、EJでは4%(p=0.04)、KSでは4%(p=0.04)とまれであった。
■UIPはPL-12で多かった(36%, p = 0.03)。

再燃

再燃のバイオマーカー:KL-6

KL-6は日本の間質性肺炎の診療でよく行われる検査の一つです。

抗ARS抗体陽性例では長期的に再燃を繰り返すことが臨床的な大きな問題となりますが、再燃とKL-6の関連に関する研究が日本から報告されました。

Takei R, et al. Predictive factors for the recurrence of anti-aminoacyl-tRNA synthetase antibody-associated interstitial lung disease. Respir Investig 2020;58:83–90.

■対象患者:抗ARS抗体陽性の間質性肺炎の患者57例
■年齢中央値:59歳
■女性:75%
■間質性肺炎の発症:(亜)急性の経過が47%
■DM、PM、CADMの診断:2例、2例、7例、筋炎の診断がつかない症例:46例
■KL-6の中央値:1150 U/ml
■初期治療への反応性と再燃:57例中、初期治療への反応性は54例(95%)で改善し(改善までの期間中央値は3か月)、残りの3例は安定(5%)した経過。しかし、合計で56%が経過中に再燃し、再燃までの期間は27か月でした。

■再燃の定義:mPSL pulseでの再治療もしくはPSLを倍量に増量、免疫抑制剤の追加もしくは変更

KL-6の推移
■初期治療後:KL-6が1000 U/ml未満となったのは48例(91%)、500 U/ml未満(基準値内)は33例(62%)
■再燃時:KL-6は全例で上昇を認め、再燃時のKL-6中央値は1045 U/ml。
■多変量解析:KL-6の上昇が再燃の予測因子
■KL-6の値が最良値から2倍以上の上昇を認める場合、再燃を予測する感度は60%、特異度は91%

抗ARS抗体陽性の間質性肺炎では、ほとんどの症例で初期治療へは反応を示すが、経過で約60%が再燃しました。KL-6は疾患挙動を反映するバイオマーカーとして有用な可能性があり、特に最良値から2倍以上の上昇を認める場合には再燃に注意する必要があります。

カルシニューリン阻害薬中止後の再燃

抗ARS抗体陽性の間質性肺炎では、ステロイド+カルシニューリン阻害薬で治療を行った場合、カルシニューリン阻害薬の中止後に再燃が多い傾向にあり、ステロイド中止の約5か月後に注意が必要です。

Takei R, et al. Predictive factors for the recurrence of anti-aminoacyl-tRNA synthetase antibody-associated interstitial lung disease. Respir Investig 2020;58:83–90.

■本研究では、抗ARS抗体陽性の間質性肺炎に対する初期治療は、ステロイドパルス療法2-4コース+カルシニューリン阻害薬で寛解導入療法を行っています。
■その後、維持療法としてステロイド+カルシニューリン阻害薬の併用療法を行い、ステロイドもしくはカルシニューリン阻害薬を中止しながら加療を行う治療戦略です。
■経過中に約60%が再燃したと報告されていますが、この治療経過を見てみると、多くがカルシニューリン阻害薬の中止後ステロイド単剤治療となったのちに再燃していることがわかりました。

■再燃時のプレドニン量は、タクロリムスとシクロスポリンAで有意差はなし
■全体では、カルシニューリン阻害薬を中止した18例のうち、16例(89%)が経過中に再燃しています。

■カルシニューリン阻害薬を中止してから再燃までの期間は約5か月前後、カルシニューリン阻害薬の使用期間によって大きな差はなし。

再燃のリスク因子:肥満

抗ARS抗体陽性間質性肺炎では、肥満、皮下脂肪組織指数の高値が再発のリスク因子の可能性があります。

論文のタイトル: Influence of obesity in interstitial lung disease associated with anti-aminoacyl-tRNA synthetase antibodies
著者: Koichi Yamaguchi, et al
出版年: 2022
ジャーナル: Respiratory Medicine
PMID: 35091206

背景
■肥満は様々な呼吸器系疾患を発症する主要な危険因子である。
■抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体を有する患者は、しばしば間質性肺疾患(ILD)を有している。
■研究目的:抗ARS抗体関連ILD(ARS-ILD)の転帰と肥満の関連を評価すること。

方法
■ARS-ILD患者58例をレトロスペクティブに調査し、肥満(body mass index [BMI] ≥25 kg/m2)と非肥満(BMI <25 kg/m2)の患者間で臨床特性、治療、予後を比較検討した。
■胸部の脂肪はCTにより定量化した。
■胸部の皮下脂肪組織(SAT)および内臓脂肪組織(VAT)は、ILDの診断時および初回再発時に測定した。

結果
■16名の患者(28%)が肥満であった。
■肥満の患者は、DLCOが低く、HRCTスコア、SATおよびVAT指数が非肥満の患者より高かった。
■ILD の再発率は肥満患者で高く(P < 0.01)、特に SAT 指数が高い患者で高かった(P < 0.01)。
■SAT および VAT 指数は、診断から初回再発まで有意に上昇した。
■初回再発時の臨床パラメータのうち、SAT および VAT 指数は、それぞれ血清KL-6値(r = 0.720, P = 0.008)および全GGAスコア(r = 0.620, P = 0.024 )と相関していた。

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