【まとめ】抗MDA5抗体陽性の間質性肺炎

筋炎関連の間質性肺炎は、その筋炎特異的自己抗体に応じた病態を考えることが重要です。

特に抗MDA5抗体は急性の経過をたどり、極めて予後不良な一群であることがわかっています。

目次

抗MDA5抗体陽性の発症:水辺、10月~3月が要注意

筋炎関連の間質性肺疾患に関して、特に抗MDA5抗体陽性例では季節性の発症や地理的な因子の影響が懸念されています。今回、その点に着目した論文が日本から報告されました。

引用文献:Nishina N, Sato S, Masui K, Gono T, Kuwana M. Seasonal and residential clustering at disease onset of anti-MDA5-associated interstitial lung disease. RMD Open (2020) 6: doi: 10.1136/rmdopen-2020-001202

目的
■多発性筋炎(PM)/皮膚筋炎(DM)関連の間質性肺疾患(ILD)の発症が、筋炎特異的自己抗体との関連で季節や居住地によって影響を受けるかどうかを調査する。

方法
■多施設コホートに登録されたPM/DM関連ILD患者について、信頼できる臨床情報の有無に基づき、365人と481人がそれぞれ季節的および地理的な解析の対象となった。
■患者は、(1)抗MDA5抗体陽性患者、(2)抗ARS抗体陽性患者、(3)これらの抗体陰性患者の3群に分けられた。
■季節性は、Rayleigh検定により評価した。
■居住地から最寄りの水辺までの距離はGoogle Mapで測定し、正確なウィルコクソン順位和検定によりグループ間で比較した。

結果
抗MDA5陽性患者では、10月~3月に発症する頻度が高かったが(p=0.03)、残りの2つの患者群では季節の関係は認められなかった。
■抗MDA5陽性患者の発症時の居住地は、抗ARS陽性患者や抗MDA5-/ARS陰性患者と比較して、水辺、特に淡水域に有意に近かった(それぞれp=0.003、0.006)。

肺の画像解析

画像所見と画像パターン

抗MDA5抗体陽性の間質性肺疾患では、すりガラス影、コンソリデーションが特徴的であり、網状影は少ない傾向にあるようです。

引用文献:Waseda Y, Johkoh T, Prosch H, Nemec S, Saeki K, Watanabe S, et al. Chest computed tomography findings of adult patients with antimelanoma differentiation-associated protein 5 antibody-positive interstitial lung disease. Mod Rheumatol 2022;32:365–72.

目的
■抗MDA5抗体に関連する間質性肺疾患(ILD)は急速に進行する疾患であり、積極的な治療が必要である。しかし、抗体検出に要する時間が長いため、迅速な診断が困難である。
■本研究では、抗MDA5抗体陽性ILD(抗MDA5-ILD)のCT所見について述べる。

方法
■抗MDA5-ILD患者20例(男性7例,女性13例,平均年齢53.6±13.5歳)のCT所見を後方視的に検討した。
■全例が皮膚筋炎と診断され、14例が筋萎縮性所見を呈していた。

結果
■画像所見:両側のすりガラス影(ground-glass attenuation)を20例(100%)、コンソリデーション(air-space consolidation)を15例(75%)、網状影を3例(15%)に認めた。
■コンソリデーションの広がりは6.0 ± 5.6% (平均 ± 標準偏差)であった。
■単変量解析では、KL-6高値、コンソリデーションの範囲が広いこと、低酸素血症、努力肺活量(FVC)低値が生存率低下の有意な予測因子であることが明らかになった。
■最終的な放射線診断:非特異的間質性肺炎(NSIP)が2例(10%)、器質化肺炎(OP)が16例(80%)であった。さらに、OP患者の30%に線維化を認めた。

胸部CTと自己抗体を用いたクラスター解析

特発性炎症性筋疾患の重要な合併症の一つである間質性肺疾患には、胸部CT所見と筋炎特異的自己抗体で3つのクラスターに分類されることが明らかとなった。

引用文献:Laporte A, et al. Idiopathic inflammatory myopathies: CT characteristics of interstitial lung disease and their association(s) with myositis-specific autoantibodies. Eur Radiol 2022;32:3480–9.

目的
■間質性肺疾患(ILD)は、特発性炎症性筋疾患(IIM)の最も一般的な筋外症状の一つであり、予後不良である。
■筋炎特異的自己抗体(MSA)陽性は、IIMの診断に重要な所見である。
■研究目的:IIMに関連する肺のパターンを同定し、CT所見とMSAの関係を評価し、大規模なIIM集団における観察者内および観察者間の再現性を評価すること。

方法
■2003年から2019年のIIMの連続症例(2003~2019年)を対象とした。
■2名の胸部放射線科医がすべての胸部CTを後方視的に評価した。CT所見の多重対応分析および階層的クラスター分析により、ILD患者のサブグループを同定し、特徴付けた。
■分類および回帰木解析により、3つのパターンを予測するCTスキャン変数が強調された。3人の独立した放射線科医がCTスキャンを2回読み、CTのILDパターンのクラスターに従って患者を割り付けた。

結果
■257人のIIM患者のうち、94人(36.6%)がILDを有し、そのうち87人(93%)がMSA陽性であった。ILD-IIMの分布は、ASyS 54人(57%)、DM 21人(22%)、IMNM 15人(16%)、IBM 4人(4%)であった。
■クラスター解析により3つのILD患者サブグループが同定された。
 クラスター1:コンソリデーションが特徴的、抗MDA5抗体の陽性率が高い。
 クラスター2:嚢胞やコンソリデーションを伴わない網状影が有意に多い。
 クラスター3:全例が嚢胞と抗PL12抗体を有していた。
■クラスター2および3は、有意に多くのASyS患者を含んでいた。これらの3つのクラスターに患者を分類するための観察者内一致度は良好から優れており(Cohen κ 0.64-0.81)、観察者間の信頼性も良好であった(Fleissのκ 0.56)。

肺の病理所見

クライオバイオプシーで肺病理DAD所見を証明

急速進行性の間質性肺炎を伴う抗MDA5抗体陽性筋炎患者に対して、クライオバイオプシーで肺の組織を採取し、DADを証明した極めて重要な症例報告が日本から報告されています。

引用文献:Ishihara H, Kataoka K, Takei R, Yamano Y, Yokoyama T, Matsuda T, et al. Anti-MDA5 antibody-positive clinically amyopathic dermatomyositis with diffuse alveolar damage diagnosed by transbronchial lung cryobiopsy: A case report. Respirol Case Rep 2021;9:e0865.

■Diffuse Alveolar Damage(DAD)は、ARDSやAIPの病態的特徴であり、予後不良であることが知られている。
■今回、呼吸不全を伴わない早期に経気管支肺凍結生検(TBLC)によりDADが確認されたRP-ILDを呈する抗MDA5抗体陽性CADMの一例を報告した。
■患者は当初呼吸不全を示さなかったが、集学的な免疫抑制療法にもかかわらず呼吸状態が徐々に悪化し、3ヵ月後に死亡した。
■呼吸不全がなくても組織学的なDADはその後の予後不良を示し、抗MDA5抗体陽性CADMを伴うRP-ILDの難治性経過を示唆する可能性がある。

予後解析

特発性肺線維症以外の間質性肺炎においても、進行性に線維化が悪化するフェノタイプが存在することは解説させていただきました。これらはPF-ILDとして知られ、現在の間質性肺炎の診療のトピックスの一つです。 
(PF-ILDに関してはこちらの記事をご覧ください。)

筋炎におけるPF-ILDに関しては、まだ議論のあるところではありますが、これまで間質性肺炎の合併に関する研究は多数行われています。

それでは、皮膚筋炎/多発性筋炎における予後に間質性肺炎はどのような意味をもつのでしょうか。

筋炎全体での死亡原因

まず重要な研究として、1984年から2009年に日本の筋炎コホートに登録された197例の筋炎患者を対象とした研究が2011に報告されています。

引用文献:Yamasaki Y, et al. Longterm survival and associated risk factors in patients with adult-onset idiopathic inflammatory myopathies and amyopathic dermatomyositis: experience in a single institute in Japan. J Rheumatol 2011;38:1636–43.

この研究では、1年後の生存率は85%、5年後は75%、10年後は67%でした。観察期間中に筋炎に関連して死亡した症例は42例であり、その内訳は、
48% 間質性肺炎
36% 悪性腫瘍
10% 心不全
5% 肺高血圧症脳血管障害

という結果でした。皮膚筋炎の全体集団の約半数が間質性肺炎で死亡するという、極めて重要な研究です。

筋炎関連間質性肺炎での死亡原因

その後、2018年には筋炎に伴う間質性肺炎のコホート研究としてとても重要なJAMIコホートの結果が報告されています。
2011年から2015年に日本の筋炎関連間質性肺炎コホート(JAMIコホート)に登録された497例の筋炎関連間質性肺炎患者が対象です。

引用文献:Sato S, et al. Initial predictors of poor survival in myositis-associated interstitial lung disease: a multicentre cohort of 497 patients. Rheumatology 2018;57:1212–21.

この研究では、観察期間中(中央値20か月)に死亡したのは93例(19%)であり、その原因は、
82% 間質性肺炎
5% 感染症
5% 悪性腫瘍

という結果でした。やはり間質性肺炎を合併している筋炎の患者では、大半が間質性肺炎が原因で死亡することが明らかとなりました。

また、予後不良な所見として、
年齢が60歳以上
CRPが1.0mg/dl以上の上昇
SpO2が95%未満
抗MDA5抗体陽性

の4つが挙げられています。

筋炎の患者さんでは、間質性肺炎は生命予後に関わる非常に重要な合併症です。特に、高齢や炎症反応高値、低酸素血症などある場合には注意が必要と考えられています。

予後予測モデル(MCKモデル)

日本最大の皮膚筋炎/多発性筋炎コホートにJAMIコホートがあります。
今回このJAMIコホートから、皮膚筋炎/多発性筋炎に伴う間質性肺疾患の予後予測のスコアリングモデル(MCKモデル)が報告されました。
このスコアリングは、抗MDA5抗体の有無、CRP、KL-6の3つの因子から構成されています。

引用文献:Gono T, et al. Risk Prediction Modeling Based on a Combination of Initial Serum Biomarker Levels in Polymyositis/Dermatomyositis-Associated Interstitial Lung Disease. Arthritis Rheumatol 2021;73:677–86.

■抗MDA5抗体陽性例
CRP≧0.8mg/dlとKL-6≧1000U/mLをそれぞれ1点として、それぞれの死亡率は
0点:死亡率 13.6%
1点:死亡率 39.2%
2点:死亡率 57.5%

■抗MDA5抗体陰性例
CRP≧1.1mg/dlとKL-6≧1000U/mLをそれぞれ1点として、それぞれの死亡率は
0点:死亡率   2.0%
1点:死亡率   4.7%
2点:死亡率 27.5%

もしくは

0-1点:死亡率   3.5%
2点:死亡率 27.5%

 ■この研究における観察期間中央値は20か月(幅1-50か月)、全体の19%が死亡
■抗MDA5抗体の有無、CRP、KL-6を用いたこのMCKモデルを用いることで、皮膚筋炎/多発性筋炎に伴う間質性肺疾患の死亡リスクを予測できる可能性がある。

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