今日は新たな取り組みとして、架空のケースから問題提示したいと思います。
ケースプレゼンテーション
70歳の男性。特発性肺線維症の診断で抗線維化薬を使用中。安静時の低酸素があり、今回はじめて在宅酸素療法を導入した。
在宅酸素の流量は、オキシマイザーで安静時1L、労作時3L、就寝時1Lで設定した。在宅器は5Lタイプを選択し、労作時は酸素ボンベを使用して対応している。
★オキシマイザーはこのような形のものです。
また仕事で長時間移動することも多く、携帯型の酸素濃縮器も併用したい希望があった。携帯型の酸素濃縮器を使用する際は、鼻カヌラの同調で安静時1L、労作時2.5Lの流量を設定した。
在宅酸素療法の導入後は息苦しさも改善し、活動範囲も増えていた。
しかし、受診当日の朝、排便後より強い咳嗽と息苦しさ、右胸痛を自覚して来院した。
自宅ではオキシマイザーを使用して、在宅機から3Lの流量で酸素を吸入していた。
SpO2 94%であり、オキシマイザーのままポータブル型の酸素濃縮器の同調2.5Lに切り替えて自宅を出発したが、出発後より徐々に呼吸困難は悪化し、来院時はSpO2 60%まで低下していた。
右気胸の診断で緊急入院、治療を開始した。
いかがでしょうか。どこが重大な誤りかわかりますか?
このような経過で患者さんが来院された場合、もちろん気胸の治療は大切です。
しかしそれ以上に在宅酸素の使用に関して大きな誤りがあります。
★特発性肺線維症、抗線維化薬、気胸についての記事は以下の記事もご覧ください。
解説
今回のケースをまとめると、以下の通りとなります。
- 特発性肺線維症の70歳男性
- 抗線維化薬使用中
- 在宅酸素療法を導入
- 在宅機5L(オキシマイザー):安静時1L、労作時3L、就寝時1L
- 携帯型酸素濃縮器(鼻カヌラ):安静時1L、労作時2.5L
受診時:オキシマイザーを使用して携帯型濃縮器(同調、2.5L)
診断:特発性肺線維症の経過で発症した右気胸
この症例で一番の問題であったのは、
同調器とオキシマイザーを一緒に使用した点でした。
オキシマイザーは、呼気時に酸素が流入しリザーバーが膨らむ仕組みとなっています。そのため、同調器でオキシマイザーを使用した場合、呼気時には酸素の流入がないため、オキシマイザーのリザーバーが膨らまず、役目を果たしません。
さらに、そもそもオキシマイザーでは同調器が正常に反応しないため、併用はできません。息を吸っても濃縮器が反応せず、酸素が流入しませんので、とても危険です。酸素なしで生活しているのと同等の状態です。
オキシマイザーを使用する際は絶対に連続流で使用してください。
携帯型濃縮器は、同調のみのものと同調か連続流量かを選べるタイプがあります。しっかり調べてから、必ず忘れないように注意してください。