ちょっと今日は趣向をかえて、論文を深読みしてみたいと思います。
先日、間質性肺炎に伴う肺高血圧症に対するトレプロスチニル吸入の後解析の結果をご報告させていただきました。トレプロスチニル吸入開始後に疾患進行イベントが起こっても、さらに吸入を継続することで2回目の疾患進行イベントが起こりにくいとする報告で、ざっくりいうと疾患進行イベントが起こっても吸入を続けましょうという内容です。
この報告について以下の2点について詳しく見てみたいと思います。
疾患進行イベントの解釈について
まず、疾患進行イベントについて。今回の研究では疾患進行イベントは以下の6項目から構成されています。
- 6分間歩行距離の15%以上の減少
- 肺疾患の増悪
- 心肺疾患による入院
- 肺移植
- 努力肺活量(FVC)の10%以上の減少
- 死亡
ここで注意すべき点としては、もともとのプロトコールに組み込まれていた疾患進行イベントは①③④⑥のみで、②肺疾患の増悪と⑤FVC10%以上の減少は安全性の評価項目として組み込まれていたものを、今回の解析にあったって疾患進行イベントとして扱っている点です。
また、(急性)増悪に関しては、「肺野に広範に広がる異常陰影を伴う急性経過で発症する臨床的に意義のある呼吸状態の悪化」と定義され、またその判定も中央判定(治験管理事務局の専門家らの判断)ではなく、治験責任医師(病院の医師)の判断で判定されています。
さらに、肺機能検査に関しては、吸入開始後8週と16週の2ポイントのみでの評価のみとなっています。
この点をふまえて、疾患進行イベント発生までのカプランマイヤー曲線を改めてみてみますと、8週と16週時点で疾患進行イベントが急激に増えていることに気づきます。またそれ以外の部分ではあまり差はないようにも思いますので、その点に注意して結果を解釈する必要があります。
各サブグループにおける複数の疾患進行イベントの解釈について
次に各サブグループの複数の疾患進行イベントの解釈についてです。各サブグループでの疾患進行イベントを積み上げグラフが提示されています(以下)。FigureAが特発性間質性肺炎、Bが特発性肺線維症、CがCPFE(気腫合併肺線維症)、Dが膠原病に伴う間質性肺炎の図です。
トレプロスチニル吸入群、プラセボ群の患者数はそれぞれ、
- 特発性間質性肺炎(A)で65例 vs 81例
- 特発性肺線維症(B)で37例 vs 55例
- 気腫合併肺線維症(C)で42例 vs 40例
- 膠原病に伴う間質性肺炎(D)で40例 vs 32例
となっています。そのことをふまえて改めて図を見てみますと、Dの膠原病に伴う間質性肺炎では、母集団の人数は多いのにも関わらず複数の疾患進行イベントが起こった人数は少ない印象があります。一方、Aの特発性間質性肺炎やBの特発性肺線維症ではそもそも母集団の数が異なりますので、それを差し引いての解釈が必要です。
いずれにせよ、間質性肺炎に伴う肺高血圧症の初めての治療薬であるトレプロスチニル吸入には大きな期待があります。日本でも一日でも早く臨床使用が可能となることを願うばかりです。